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主催事業情報 2023/12/22 KAATカナガワ・ツアー・プロジェクト 第二弾 県内リサーチレポート<長塚圭史が巡った神奈川県>

KAATカナガワ・ツアー・プロジェクト 第二弾  『箱根山の美女と野獣』『三浦半島の人魚姫』バナー画像

劇場を飛び出して神奈川県内各地を巡演する、KAATカナガワ・ツアー・プロジェクト 第二弾。芸術監督の長塚圭史が県内を巡り、リサーチを重ねてきました。神奈川新聞日曜版での連載中の「長塚圭史の雨上がる」に掲載された記事を通して4回に渡りリサーチの模様をお届けします。 

 

公演期間:2024年2月3日(土)~2月12日(月・休)<中スタジオ>

公演詳細>>https://www.kaat.jp/d/tour_project2023


三浦半島(上)  [12/1 UP] | 三浦半島(下)  [12/8 UP]| 箱根山(上) [12/15 UP]| 箱根山(下)  [12/22 UP]

 

 

三浦半島で人魚を探す (上)

横須賀の三笠ターミナルからフェリーで約10分の東京湾に浮かぶ無人島・猿島へ行ったのは、観光ではなくあくまでも取材である。だが晴れ渡る空に青い海となると、自ずと浮き足立ってしまうもの。


日蓮伝説など島の歴史は深い。幕末から第二次世界大戦までは首都防衛の要塞であった。英国式煉瓦積みから仏式フランドル積み、昭和のコンクリート様式まで、各時代の要塞ミックスチュアは人気スポットだ。また自然が豊かで、野鳥の歌声にも酔いしれた。

 


遊びに来たわけではない。来年県内を巡演する『三浦半島の人魚姫』という芝居の舞台となるスポットを探索するのだ。土地土地に眠る民話、歴史、神社仏閣などにも目を光らせながら、人魚が顔を出しそうな波間を探すのだ。


猿島は少々観光名所が過ぎる。皆写真を収めながら楽しそうに島内を巡っている。人魚など現れようものなら忽ちSNSにアップされて炎上するであろう。ここじゃないかもね。やっぱそうですかねえ。でも気持ちいいねえ。野鳥いいっすねえ。なんて話している間に昼を過ぎている。貴重な1日。しっかり三浦半島をリサーチしなければ。フェリーは1時間に1本なるも、あ、バーベキューをしているね、なんて肉など焼き始めれば日が暮れてしまう。

 

長塚圭史の雨上がる第14回画像
猿島から横須賀を眺める。岩場に隠れきれなかったのは神奈川芸術文化財団のN野氏。撮影は来年の公演の制作担当の愉快なS藤氏。どういうつもりで撮ったのか…。


三崎辺りで美味しい鮪食べたいですねえ。どうにか半島に戻って車に揺られながら、うん、確かに腹が減ってきた。だがこれは取材であって、食べ歩きではないのである。海岸線を観音崎方面へと急ぎ、途中の定食屋へ。採れたて過ぎて鯵はフライに出来ないのと女将さん。新鮮な鯵の刺身定食を実に美味しく頂いた。


一杯ひっかけたいところをグッと堪えて、走水の神社を参り、この辺りにも豊かな伝説が満ちていることを知る。横須賀美術館を横目に見晴らしの良い観音崎へ。浦賀水道を挟んで千葉県が見える。向こう岸でも人魚を探す人はあるのだろうか。この景色を目に焼き付けつつ、浦賀方面へと走り出す。三浦半島探訪はなんと次回へと続く。

 

引用:2023年5月14日(日)神奈川新聞日曜版掲載 長塚圭史の雨上がる⑭

三浦半島で人魚を探す (下)

100年以上の歴史を刻む浦賀レンガドックに後ろ髪引かれながら、ホンダフリードを南へ走らせる。何をおいてもここ三浦半島で人魚スポットを探し出す。2024年に県内で上演予定の『三浦半島の人魚姫』のリサーチのため、早朝から人魚の現れそうな海辺を求めて三浦半島を駆け巡っているのだ。ペリーはお預け。


5月の三浦海岸は静か。ひとり海を見つめながら、こういう折にひょこりと波間に現れる人魚も良いが、海水浴客で賑わう中、私にだけ煌めく人魚もいい、などと考えてニヤニヤしているとクラクション。ぼやぼやしていると三崎口のマルシェで土産物が買えなくなるというのである。これは取材であって買い物ではないのだが、急ぎ砂を蹴って車に戻る。

 


城ヶ島や海南神社は既にリサーチ済。ただ油壺を私は知らない。情報不足の中、ふと前方にパン屋が出現。何やらヨーロッパの街角を思わせる佇まい。迷わず下車すると、ドイツでパン修業をしたという油壺出身の重田明子さんが故郷に戻って当店を開いたという。ずっしりとしたライ麦食パン、プレッツェルなどずらり。これはひょっとすると。この辺りに人魚の出そうな場所はありますかと直球尋ねてみる。すると、ほぼ即答。

 

長塚圭史の雨上がる第15回画像
店名「ベッカライ・ゾンネンキント」は「太陽の子」という意味だとか。さてさて劇中こちらのおいしいドイツパンも登場するのかどうなのか?


フリードに飛び乗るわれわれ。小網代湾は幾艇ものヨットが美しく浮かぶ湾。かまぼこ型の森がそのまま海と接する様はドイツの湖岸のよう。
鬱蒼とした坂道を下ってたどり着いた胴網海岸は静謐な入江。既に歴史が深く根を下ろし、浮ついた訪問者を牽制する。茜色に染まる絶景と美しい波音にすっかり耳目を奪われる。
しかし重田さんのチョイスはどちらも実に見事だったね、と野毛のトンカツ屋で深夜まで語らいながら、さて、人魚スポット探しはまだまだ続くのであった。
 

長塚圭史の雨上がる第15回画像(海と長塚圭史)

引用:2023年6月11日(日)神奈川新聞日曜版掲載 長塚圭史の雨上がる⑮

箱根の山で野獣のすみかを探す (上)

箱根湯本駅に午前10時集合。来年1月にKAAT神奈川芸術劇場で上演される『箱根山の美女と野獣』の脚本を書くため、箱根山を登ろうじゃないかとやってきたのである。登山ではなく箱根登山鉄道、ケーブルカーで登るのは怖気づいたからではない。だってスイッチバックしたいじゃないか。


早速箱根登山鉄道に乗り込み、まずは強羅まで。最後尾に乗り込んで車窓にかぶりつく。もちろん最後尾は折々先頭車両となる。厳しいカーブと急勾配によるレールの摩耗を防ぐため水を自動で撒きながらの走行。観光客の熱視線に少しも動じぬ運転士もやけに素敵に見えてくる。

 


強羅で多くの乗客がそのまま早雲山行きのケーブルカーに乗り換えるが、我々はリサーチゆえぶらぶらしてみる(多くの観光客は彫刻の森で下車するが私は行ったことがあるので今回はスルー)。木漏れ日の差し込む未舗装の小道を見つけて入っていくと、カフェのある小さな写真館が。仏蘭西から来た母親と幼い娘が仲良くお茶をしていた。どことなく異国の雰囲気が漂う。


展示されていたのは館長でもある遠藤桂氏の富士山をはじめとする山の写真。遠藤氏は親子三代にわたる箱根の写真一家。これはもしやと思い切って聞いてみる。箱根に野獣の住みそうな山ってありますか? たちまちぐるぐると考えを巡らせてくださる副館長の遠藤詠子さん。詳しい人を呼びますとまでおっしゃってくれたが、我々も時間に限りがありそこまでは断念。だが可能性のある山の名を挙げてくださり、知りたいことがあればいつでも連絡をしてくださいとのありがたいお言葉までいただく。

 

長塚圭史の雨上がる第17回画像
箱根写真美術館の副館長である遠藤詠子さんはなんとFMおだわらの「SUNDAY APRICOT GARDEN」という番組の中のコーナーで箱根のおすすめスポットやイベントを紹介なさっています!


すっかり頼もしい心持ちで公園下から早雲山行きのケーブルカーに乗車。10分もしないうちに到着。こちらは見晴らしの良い展望台のある駅。ここで名物くもぱんなどを食べていると、写真館で出会った素敵仏蘭西母娘が通り行く。なんとこの先幾たびも出会うこの母娘とわれらの運命やいかに。ここまでが箱根山のリサーチの旅前編でした。果たしてわれら一行は野獣の住まう山に出合えるのか、乞うご期待下さい!
 

引用:2023年8月6日(日)神奈川新聞日曜版掲載 長塚圭史の雨上がる⑰

 

箱根の山で野獣のすみかを探す (下)

早雲山からいよいよ大涌谷へと向かう。満員のロープウェイの乗客は全て外国人。隣にはなんと半刻ほど前に強羅の箱根写真美術館で出会った仏蘭西人の母娘も乗っている。
標高1044メートルの大涌谷へ向けて巻き進むロープウエー。高所は苦手ながら、太陽を浴びて青々と光る箱根の美景にうっとり魅入られていると、鼻をつくあの香り。む、いよいよか。
果たして視界はたちまち激変する。硫黄のガスがもうもうと噴き出す。むき出しの山肌。ギンギラ黄色の大涌谷が姿を現した。色めく車内にもうなずける。東京からほんの2時間ほどでこれだけの異界へ踏み込めるのだ。

 

長塚圭史の雨上がる第18回画像
大涌谷の光景を必死に眺めるあまり、ほとんど写真を収めておらず、探し出すのに大変苦労しました。これは同行したS氏からの提供によります。それほどに目を奪われるのです!


何を隠そう私は或るリサーチのために匂い立つこの地にいる。年明けに上演される『箱根山の美女と野獣』なる演劇作品の脚本執筆のため、この箱根山のどこかに野獣の棲まうすごい場所はないかと探している。


大涌谷の異形ぶりは持ってこいであった。ただ人が多すぎる。観光客、観光客、観光客。この先さらにインバウンドでますます盛り上がること必至。素晴らしいことではあるが、一途な愛を欲する野獣にはややノイジーである。


「黒たまご」を購入し、ともあれ下山。すると車内にはまたもやあの仏蘭西の母娘が乗っている。笑顔で手を振りながら、野獣を思う。寂しい野獣は、きっとこの麗しき異国の母娘に思い入れ、そのことがまた野獣を不幸にする。どんなに思い入れても彼女たちと暮らすことはできないのだから…。

 

長塚圭史の雨上がる第18回画像(ロープウェイの前の長塚圭史)


芦ノ湖へ到着。午後の日差しを受けてきらめく湖面がまぶしい。さて今度は麓から箱根山を吟味せんと立ち入り禁止と言われる二子山の入り口をのぞきに。途中ひっそりとした池に出合う。ここにも伝説が眠るが、安易に触れぬ方がよい場所もある。脳内でこの地に伝わる物語のみ反芻。


二子山はこんもりユニークな山だが、ふと現在の箱根山や芦ノ湖を形成した間に消えてしまった神山のことを思う。今は既になき山に棲まう野獣。いいかもしれない。とニタニタしていたら、ぽおんと日が暮れた。
 

長塚圭史の雨上がる第18回画像(二子山)

引用:2023年9月3日(日)神奈川新聞日曜版掲載 長塚圭史の雨上がる⑱

 

KAATカナガワ・ツアー・プロジェクト 第二弾『箱根山の美女と野獣』『三浦半島の人魚姫』公演詳細

【横浜公演】

2024/2/3(土)~2024/2/12(月・休)<中スタジオ>

作・演出:長塚圭史 音楽:阿部海太郎 振付:柿崎麻莉子
出演:菅原永二 柿崎麻莉子 四戸由香 長塚圭史 片岡正二郎
演奏:トウヤマタケオ

 

詳細>>https://www.kaat.jp/d/tour_project2023

 

<神奈川県内ツアー>

【座間公演】
会場:ハーモニーホール座間  小ホール
日程:2024年2月17日(土)16:00、18日(日)13:00

詳細>>https://www.kaat.jp/d/tour_project2023_zama

 

【川崎公演】
会場:川崎市アートセンター アルテリオ小劇場
日程:2024年2月21日(水)18:30

詳細>>https://www.kaat.jp/d/tour_project2023_kawasaki

 

【小田原公演】
会場:小田原三の丸ホール  小ホール
日程:2024年2月24日(土)16:00、25日(日)13:30

お問合せ: 小田原三の丸ホール 0465-20-4152(9:00~20:00、休館日を除く)

 

【逗子公演】
会場:逗子文化プラザ なぎさホール
日程:2024年2月28日(水)18:30

詳細>>https://www.kaat.jp/d/tour_project2023_zushi

 

【茅ヶ崎公演】
会場:茅ヶ崎市民文化会館 小ホール 
日程:2024年3月2日(土)16:00、3日(日)13:00 
お問合せ:茅ヶ崎市民文化会館 0467-85-1123(9:00~22:00、第4月曜定休)