KAATについて

芸術監督 長塚圭史からのごあいさつ

2022年度のKAAT神奈川芸術劇場は、ますます「ひらかれた」劇場となるべく歩み出します。劇場を愛し、楽しみにしてくださる皆様はもちろん、まだ劇場へ訪れたことのない方々にも足を運んでいただきたい。豊かな創造力を働かせ、沢山の煌めくような作品を上演している劇場がこの神奈川県にはあるのだということをもっともっと知っていただきたい。そんな思いを胸に今年度も魅惑のラインアップが揃いました。

まずは春爛漫のプレシーズン。陽光さすガラス囲いのエントランスがカラフルなアート空間に様変わり。この奇想の空間で、アート、演劇、ダンス、音楽がクロスするパフォーマンスが、賑やかにみなさんをお待ちしています。夏にはKAATが誇るキッズプログラムも。子どもたちが参加して完成するダンスと演劇は、大人だって見逃せません。

秋には、いよいよ翌春まで続くメインシーズンが開幕。今年のシーズンタイトルは『忘』です。「ぼう」と読みます。2021年度の『冒』から2022年度の『忘』へ。私たちは猛スピードで進む現在に立ち、日々大切なことをどんどん忘れていきます。人間は忘れる生き物です。もしかすると忘れるという罪を背負っているのかもしれません。時にみずから目を逸らし、積極的に忘れることもあります。忘れることは力に変わり、そうすることで今を生き抜けることだってあります。忘れない。忘れられないこともあります。数々の災害、コロナ禍の中で人々はどうたくましく歩んできたのか。沖縄本土復帰から50年。そして遠ざかる敗戦の記憶。こうして再び世界が戦争の凄惨に飲み込まれる中、遠ざけるにはまだまだ早すぎる記憶なのだと改めて痛感します。また忘れたくても露わになる人間の欲望もあります。広大な記憶の荒野に立ち、私たちは今、何を思うのか。『忘』。思った以上にさまざまな思考を刺激しませんか?

そして今年も、アーティストと一緒にマグマのようにアイデアをグツグツさせていく「カイハツ」も推し進めて行きます。KAATは、創造の種子を育てる場としても歩んでいこうとしています。どんな「カイハツ」が行われているのか、ちょっとずつお伝えしていきますね。

様々なテクノロジーを携えて私たちは次なる時代に突入しました。けれど人間はまだまだ新たな地平に立てずにいると言わざるを得ません。過ちを繰り返すのが人間です。だからこそただ新しさばかりを求めるのではなく、「あの日」を忘れずにこの手にしっかりと掴み、じっと見つめて、それから大きく前進したい。

劇場は古き良き思考と、新たな視界の宝庫でありたいと思っています。皆様と共に、想像力に溢れた劇場を創って行きたいと願っています。
2022年、いよいよ始まりましたよ!!

KAAT神奈川芸術劇場芸術監督長塚圭史

長塚 圭史(ながつか けいし) [劇作家・演出家・俳優]

長塚 圭史
撮影:細野晋司

劇作家・演出家・俳優。1975年5月9日生まれ。1996年早稲田大学在学中に演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を結成し、作・演出・出演の三役を担う。2017年に劇団化。2011年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、2017年には、福田転球、大堀こういち、山内圭哉と新ユニット「新ロイヤル大衆舎」を結成。

2004年第55回芸術選奨文部科学大臣新人賞、2006年第14回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。
2008年9月から1年間 文化庁・新進芸術家海外研修制度にてイギリスに留学。
2019年4月よりKAAT神奈川芸術劇場芸術参与。
2021年4月、KAAT神奈川芸術劇場芸術監督に就任。

KAAT神奈川芸術劇場での作品
2011年1月 葛河思潮社 第一回公演「浮標」(演出・出演)
2013年9月 葛河思潮社 第三回公演「冒した者」(演出・出演)
2014年9月 葛河思潮社 第四回公演「背信」(演出・出演)
2016年4月 白井晃演出「夢の劇 -ドリーム・プレイ-」(台本・出演)
2016年8月 葛河思潮社 第五回公演「浮標」(演出・出演)
2017年10~11月 「作者を探す六人の登場人物」(上演台本・演出)
2018年9~10月 白井晃演出「華氏451度」(上演台本)
2018年9月 阿佐ヶ谷スパイダース「MAKOTO」(作・演出・出演)
2018年11月 「セールスマンの死」(演出)
2019年12月 「常陸坊海尊」(演出)
2021年1月  「セールスマンの死」(演出) ※再演
2021年5~6月 新ロイヤル大衆舎×KAAT「王将」-三部作‐(構成台本・演出・出演)
2021年9月 「近松心中物語」(演出)
2022年2月 「冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~」(上演台本・演出・出演)