KAATについて

芸術監督 長塚圭史からのごあいさつ

劇場とは何か。今、改めて問われているように思います。
芸術とは、人間が抱く尊い理性と豊かな感性、そして愛への讃歌でもあります。劇場はそうした芸術作品、芸術行為を楽しみ、感動を共有できる場所です。そしてアーティストの創造する力と観客の想像力が一体となり、様々な世界を生み出すことが出来る特別な空間です。劇場は人間のイマジネーションを大きく育くむ場所なのです。
イマジネーション。それは私ではないなにものかの心に近づき、時に寄り添い、涙を流し、笑い、またある時は拒絶し、嫌悪し、怒りを覚えることで自らがどの地点に立っているのかを知る力でもあります。こうした共感や客観の視野が育まれるのもまた劇場です。
今や世界は再び戦時下に置かれています。決して他人事ではありません。日々俳優やダンサーが実演をする劇場は常に、鏡のように現在を映し、社会を照らし出し、問いかけます。
劇場は、アーティストと観客のイマジネーションが響き合う、共感と気づきの場です。多くの皆さんに、劇場を知り、その力を感じていただきたいと強く願っています。

KAAT神奈川芸術劇場は、2023年度も、県民の皆さん、地域の皆さん、そして上演を楽しみにしてくださっている全ての皆さんに、こうした劇場の豊かさを知っていただくべく、3つの柱のもとに歩んでいきます。
1つ目は、1年の前半をプレシーズン、後半をメインシーズンと称したシーズン制。4月からのプレシーズンは新しい試みに満ちた作品をご用意します。夏には毎年恒例のKAATキッズ・プログラム。今年は充実の3作品。そして9月からの半年間はメインシーズン。シーズン制は、劇場にリズムを作り、季節感を生み出します。春になると劇場が動き出し、夏には子供が出入りして、メインシーズンにはタイトルがどんと出てきて、何やら始まる空気が広がっていきます。
2つ目は劇場を“ひらいて”いくこと。ただ劇場の中で待つだけではなく、大きくその扉をひらこう、と。劇場の入り口であるアトリウムをより開放的で、発想豊かな場所にします。また2021年に創刊した季刊誌 神奈川芸術劇場 「KAAT PAPER」は、劇場と地域、県内の方々との出会いの場。様々な角度から社会と劇場との関係を見つめます。また今年度は2回目のKAATカナガワ・ツアー・プロジェクトがあります。なかなかKAATまでは遠いというお客様と出会いに、県内各地の劇場へ神奈川県を舞台にした作品を引っ提げて行きます。
そして3つ目が「カイハツ」。これは劇場が常に考える場所であり、豊かな発想を生み出せる場となるよう、アーティストに思考や実験の場を提供したり、また劇場の未来につなぐための情報を集めてアーカイブしておいたりする活動です。まだまだ走り始めたばかりですが劇場の未来を見据える重要な投資事業です。
それともう1つ。2022年度からスタートした大好評の神奈川県民割引を全ての主催公演で実施します。また破格の学割も引き続き販売。さらに今年度はキッズ・プログラムの3作品通し券を販売するほか、シーズンチケットもスタートしますのでご注目ください。

9月から始まるメインシーズンのタイトルは「貌」。「かたち」と読みます。それぞれ「かたち」があります。目に見える「かたち」、触れて確かめる「かたち」、聞こえてくる「かたち」もあるかもしれません。そしてその「かたち」に強く心を惹かれたり、愛情を抱いたり、不快感や恐怖を感じたり、仲間意識を覚えることもあるかもしれません。でもそれはあくまでも「かたち」であって中身ではありません。けれどどうしようもなく「かたち」に囚われるのが人間です。そもそも我々は純粋に「かたち」を捉えることが出来るのでしょうか。

2023年度もKAAT神奈川芸術劇場にご期待ください。

KAAT神奈川芸術劇場芸術監督長塚圭史

長塚 圭史(ながつか けいし) [劇作家・演出家・俳優]

長塚 圭史
撮影:細野晋司

劇作家・演出家・俳優。1975年5月9日生まれ。1996年早稲田大学在学中に演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を結成し、作・演出・出演の三役を担う。2017年に劇団化。2011年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、2017年には、福田転球、大堀こういち、山内圭哉と新ユニット「新ロイヤル大衆舎」を結成。

2004年第55回芸術選奨文部科学大臣新人賞、2006年第14回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。
2008年9月から1年間 文化庁・新進芸術家海外研修制度にてイギリスに留学。
2019年4月よりKAAT神奈川芸術劇場芸術参与。
2021年4月、KAAT神奈川芸術劇場芸術監督に就任。

KAAT神奈川芸術劇場での作品
2011年1月 葛河思潮社 第一回公演「浮標」(演出・出演)
2013年9月 葛河思潮社 第三回公演「冒した者」(演出・出演)
2014年9月 葛河思潮社 第四回公演「背信」(演出・出演)
2016年4月 白井晃演出「夢の劇 -ドリーム・プレイ-」(台本・出演)
2016年8月 葛河思潮社 第五回公演「浮標」(演出・出演)
2017年10~11月 「作者を探す六人の登場人物」(上演台本・演出)
2018年9~10月 白井晃演出「華氏451度」(上演台本)
2018年9月 阿佐ヶ谷スパイダース「MAKOTO」(作・演出・出演)
2018年11月 「セールスマンの死」(演出)
2019年12月 「常陸坊海尊」(演出)
2021年1月 「セールスマンの死」(演出) ※再演
2021年5~6月 新ロイヤル大衆舎×KAAT「王将」-三部作‐(構成台本・演出・出演)
2021年9月 「近松心中物語」(演出)
2022年2月 「冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~」(上演台本・演出・出演)
2022年9月 ミュージカル「夜の女たち」(上演台本・演出)
2023年2~3月 「蜘蛛巣城」(出演)
2023年9~10月 「アメリカの時計」(演出)