芸術監督 白井 晃からのごあいさつ

白井 晃
白井 晃プロフィール

2018年度に向けて

KAAT神奈川芸術劇場は、今年で開館から8年目のシーズンを迎えました。

2011年の開館以来、KAATは創造する劇場を標榜して、多くの芸術家と演劇、ダンス、コンサート、伝統芸能など、沢山の作品を創作してきました。KAATのある神奈川・横浜は、進取の精神に富んだ地として、昔から海外文化の窓口になってきました。東京から程よい距離を保ったこの地は、政治・経済・文化の面で独自の価値を保持してきたように思います。それ故に、KAATは常に先鋭的な劇場であらねばと思っています。鋭敏に感覚を研ぎ すまし、多くの先鋭的な芸術家と出会って、それらの表現者を正確に支持していく必要があると考えています。

先鋭的である、とはどういったことでしょうか。私たちが当たり前だと思っている物の見方や価値に疑問を呈し、新しい視線を持ち込むことではないでしょうか。そのことによって、私たちは自分の世界を新たな角度から見ることができるようになります。しかしながら、先鋭的なものは知らないうちに標準化され、あっという間に普通になっていきます。そのためには、常に、普通に対して懐疑の目線を持ち続けることが必要です。

芸術は、表現者がいて、それを鑑賞する者がいて初めて成立します。表現者と鑑賞者の間に起こる精神的、感覚的な震えを作る場が劇場です。そのために、表現者と鑑賞者が出会う機会を懸命に作り続けることが私たちの使命だと考えています。

メディアの発達により、沢山の情報が容易に手に入るようになりました。同時に私たちが失ってしまった衝動があるはずです。表現する欲望と鑑賞する欲望です。安易に手に入ることは安易に消えていきます。自分たちが表現と出会う場所に足を運び、直接心の揺らぎを感じることは、同時に自分の記憶に深く刻み込むことにもなるはずです。

KAATでは、今年も演劇、ダンス、音楽、現代美術という表現を劇場で積極的に融合させながら、作品作りを展開したいと考えています。演劇では私自身の創作の他に、三浦基氏の「地点」、松井周氏の「サンプル」、長塚圭史氏、アメリカの「ウースター・グループ」、杉原邦生氏、串田和美氏、木ノ下裕一氏の「木ノ下歌舞伎」による現代視線の作品群。ダンスでは、北村明子氏、伊藤郁女氏、島地保武氏の他に、海外からの招聘作品を多面的に繰り広げます。キッズ・プログラムでは、森山開次氏とカナダのジェルベ・ゴドロ氏による創作の他、音楽では三宅純氏のコンサート、現代美術のさわひらき氏の展示も開催し、多くのジャンルの表現の刺激的な交流の場を作っていきたいと思っています。また、神奈川県内の劇場とも協力し合いながら県内での活動にも取り組み、より多くの県民の皆さんにこれらの作品と出会っていただく場を作っていきます。

KAATは更に芸術表現の可能性を広げてきます。今後の活動に、どうぞご期待頂ければと思います。

皆様のご支援、何卒よろしくお願い致します。

2018年4月
KAAT 神奈川芸術劇場 芸術監督 白井晃