ニュース

HIPHOPGALAに迫る!カンパニー・カフィグ/振付家ムラッド・メルズキインタビュー

2011-06-20

KAATストリートダンスフェスティバルの目玉である、ヒップホップ・ガラ(8月5日(金)~7日(日))。カンパニー・カフィグはメインアクトとして出演。リオデジャネイロの貧民街で生まれ育った11名の若きブラジル人ストリートダンサー達による、2010年欧米ダンス界の話題をさらった最高傑作が遂に日本初上陸。過酷な現実にも決して屈することのなかった若者達による希望のエネルギーに満ち溢れる作品です。

AGWA_5_ Michel_ Cavalca小.jpg

 

——まず、ムラッドさんの踊りのバックボーンを教えていただけますか? 

ムラッド:「7歳のころ、サーカス学校でアクロバット、ジャグリングなど、サーカス芸の基礎を学んだんだ。この経験が、ダンスを作る上でとても役に立っていると思う。その後、16〜17歳でストリート・ダンスの世界へ。バレエやコンテンポラリー・ダンスと無縁の環境で育った僕にとって、当時流行していたストリート・ダンスは、みんなが踊っていて入りやすかったんだ」
 
——現在のような作品を作る“振付家”になった時期・経緯は? 


ムラッド:「ストリート・ダンス自体、振付を厳密にこなすというより、踊り手が工夫し、毎回、即興的に変えていくといったクリエイティヴィティを持っているから、ある意味では最初から振付家だったと言えるのかもしれないな。劇場に進出したのは90年代。当時、ストリート・ダンスが脚光を浴び、劇場芸術に取り入れようという機運が高まっていた。だから、時代に後押ししてもらった部分も大きいんじゃないかな」

 ——今回、来日するブラジルのダンサーたちと知り合ったきっかけは何でしょうか?

 
ムラッド:「リヨン・ダンス・ビエンナーレの芸術監督ギー・ダルメ氏の発案だった。彼はブラジルで暮らした経験があり、現地のことをよく知っていて、『AGWA』のダンサー候補として6〜7人と引き合わせてくれたんだ。さらに僕がオーディションを行い、最終的なメンバー11人を決めた。最年少は18歳、最年長は27歳。ほとんどが、テレビや周囲を見ながら、ほぼ独学で踊りを習得したダンサーたちなんだよ」
 
——彼らの印象はいかがでしたか? 


ムラッド:「ブラジルのダンサーの身体は強靭でバネがある。生来のものに加えて、歴史や生活環境に育まれたところもあるのかもしれないね。ともすればフランスのダンサーが失いがちな強いエネルギーを感じたな」

——『AGWA』はブラジルで稽古し、リヨンで08年に初演されました。創作時のエピソードをお聞かせ下さい。

 

 ムラッド:「ブラジルに約3週間滞在して振付をするという作業を、1年半の間に5〜6回行ったあと、フランスで仕上げたんだ。ブラジルでは多くの困難に遭った。スタジオ確保が難しく、砂浜や家のテラスで練習したこともあったし、人も車も多くてどこも混雑している上に、地下鉄のダイヤも乱れているから、ちょっと移動しようとするだけで2〜3時間かかってしまう。疲労困憊したよ。でもそんな中でダンサーたちが、1日6〜8時間の稽古にすごく真剣に取り組んでくれたことには、大満足だった!」

 ——そもそもストリート・ダンスでは、動きを合わせるというより個人の技で魅せる部分が大きいようにも思いますが、作品の映像を見ると、非常にまとまりもあることに驚かされます。

 ムラッド:「最初に紹介された数人は、カンパニーとまでは呼べなくても、ある程度一緒に踊った経験があった。さらに僕は稽古場で、メンバー全員の個性を引き立てつつ、同時にアンサンブルの美しさを追求したんだ。本人たちにとっても楽しかったようで、それが大きな力となったね」 

——使われている音楽の多彩さも特徴的です。曲が変われば動きのニュアンスも自ずと変化するので、いわば化学反応の妙を楽しめます。 

ムラッド:「ブラジルのダンサーたちが海外で踊る場合、サンバやカポエイラ、サルサといった南米の音楽を使うことが多い。でも僕は彼らのエネルギーに、もっとたくさんの出口を作りたかったんだ。普段はヒップホップで踊っているダンサーたちなので、稽古では“こんな音楽で!?”といった動揺もあったけれど、結果的に、とても斬新で豊かな踊りになったと確信しているよ」
 
——水、そしてそれを入れるプラスチックコップといった道具も、光を反射したり音を響かせたりと、多様な効果を発揮しています。この発想はどこから?


ムラッド:「ブラジル=サッカー、カーニバルといったステレオタイプではなく、普遍的なモチーフを扱いたかったんだ。“水”はどこにでもあり、誰もが必要としていて、イメージを共有しやすいよね。二国間を行き来するクリエイションだったため凝った美術が作れなかったのも理由の一つ。舞台では300個ものコップを使用しているけど、どこでも手に入るしコストもかさまないから」

 ——それにしても、振付におけるコップの扱いの巧みさには感心します。普段から研究を?(笑)

 ムラッド:「全然(笑)。この作品のためにどうやったらうまく使えるか、あれこれ試行錯誤したんだよ。ただ、サーカスではミネラルウォーターの瓶を使うことがあるから、学校での体験はヒントになったというのはあるかな」 

——その『AGWA』が若々しいまっすぐなエネルギーにあふれているのに対し、2年後の2010年に発表した『CORRERIA』は、ダイナミズムもありつつ、月面を歩くような幻想的な動きや、靴を小道具に使ったユーモラスな場面も盛り込まれるなど、多面的な印象です。

ムラッド:「『AGWA』が好評で、もう1演目作って各地で公演することになり、『CORRERIA』を振り付けたんだけど、共通性を持たせつつもテイストは変えたくて。『CORRERIA』の意味は“疾走”。さっきも話した通り、ブラジルでは移動に時間がかかるため、人が走るのは当たり前の光景。そもそも現代では、世界中が急いで走っているような状況だから、『AGWA』の水と同じく日常的・普遍的なモチーフだよね。重い・速い動きとともに、重力を感じさせない軽さやゆっくりとした動作を入れることで、緩急をつけ、走ることに対していろいろなイメージを喚起させたかったんだ」 

——『AGWA』にしても『CORRERIA』にしても決して大掛かりではなく、シンプルな道具で魅力的な世界が展開します。場所を選ばず体一つで人々を魅了する——。これはストリート・ダンスの本質とつながりますね。 

 ムラッド:「まさしく!この2作は国境を越えるプロジェクトゆえにひときわシンプルになったわけだけど、逆境や困難がかえって可能性を広げ、“逆転”できた気がする。僕自身も初めて作品を発表した若いころを思い出して初心に返るような気持ちになったし、今回の日本公演を含め、いろいろな国で上演することができて嬉しく思うよ」

取材・文=高橋彩子(演劇・舞踊ライター)

201133日収録

 

【作品動画】
COMPAGNIE KAFIG ”AGWA”
http://www.youtube.com/watch?v=h1EAaEyXMN8
COMPAGNIE KAFIG ”CORRERIA”
http://www.youtube.com/watch?v=waoL3_awfHA

【上演スケジュール】
 ”AGWA”8月5日(金)19:00、8月6日(土)13:30、8月7日(日)13:00
 
 ”CORRERIA” 8月6日(土)18:00

【フェスティバル詳細はこちら】
  http://www.kaatsdf.com/