
私は神奈川芸術劇場を、「我々はなぜ生きるのか、どのようにして生きるのか」ということを考える場にしたいと思っています。さまざまな人間の在り方を探り、提示しながら、「いかに生きるべきだろうか」と観客に問いかけ、ともに考えていきたいと思っています。なぜなら、それができるのが演劇であり、劇場という場だからです。
演劇は〈人と人とのかかわり〉から生まれ、育まれてきました。肉体と精神を持った生身の演者が、同じように生身の観客と時間や空間を共有し、個々の心に触れていく〈ライブ〉です。それゆえに今、演劇はとても大切な役目を担えるんじゃないか。今の時代にこそ、演劇は必要なのではないかと思うのです。
多様な空間を持った神奈川芸術劇場が、刺激や情報を与え合えるコミュニケーション広場になればと考えています。人と人とをつなぐ結び目のような、ひとつのハブ(中心、拠点、集線基地)にしたいと思っています。そして、人間は思考する素晴らしい生き物なのですから、ひととき夢の世界を見たり楽しむだけの場所ではなく、もっと個々の日常や生き方にまで触れるような「考える場所」にしたい。
ですから、あえてジャンルにはこだわらず、ジャンルを超えたあらゆる方向から表現を提示していきたいと考えています。また、劇場という形態にも縛られず、ときには劇場の建物を飛び出して、神奈川や横浜の街でパフォーマンスを展開することもあるでしょう。
いろいろな若手の演劇人や、刺激的でおもしろいことをやっているアーティストたちの力を借りながら、大勢の人の好奇心や想像力を刺激し、〈人間の創造力は無限大〉だということを示していきたいのです。そして多くの人に「人間って、こんなこともできるんだ」「こういうことでも感動できるんだ」と体感し、驚きを感じてほしいと思っています。
孤独を抱えた人たちが、そうやって違う視点や多様な考え方を知り、ともに考えることは、困難な局面を迎えた今のこの日本で、とても大切なことではないでしょうか。演劇やアートでいろいろな人や考え方に出会うことで、人間が持っている可能性は広がり、お互いが豊かになっていく。そこに、ネット社会にできることとはまた別の、演劇や劇場が持つ〈ライブ〉としての可能性の広がりを感じてやみません。
また、神奈川というところは、もともと素晴らしい歴史と独自の文化を持っている地域です。そういう意味では新しい劇場が立つ意味は深いと思います。そんな、ここだからこそ生まれる活気を大切に、将来的には劇場の建物そのものを、いつも人が集まっているような、活気ある広場にして、県民の皆さんにも地元の魅力を知っていただきたいと思います。
宮本亜門

宮本亜門プロフィール
1958年1月4日生まれ。東京都出身。神奈川芸術劇場【KAAT】初代芸術監督。
出演者、振付師を経て、2年間ロンドン、ニューヨークに留学。 帰国後の1987年にオリジナルミュージカル「アイ・ガット・マーマン」で演出家としてデビュー。 翌88年には、同作品で「昭和63年度文化庁芸術祭賞」を受賞。 ミュージカルのみならず、ストレートプレイ、オペラ等、現在最も注目される演出家として、国内外へ活動の場を広げている。 2004年に、ニューヨークのオン・ブロードウェイにて”太平洋序曲”を東洋人初の演出家として手がけ、2005年同作はトニー賞の4部門でノミネートされる。2009年5月には横浜開港150周年記念式典のプロデューサーを務め、オリジナルショー「ヴィジョン!ヨコハマ」を作・演出。2010年2月、米・フィラデルフィアオペラで作曲家であり指揮者のタン・ドゥンを迎え現代オペラ「TEA:A Mirror of Soul」を再演し、また6月にはロンドンのウエスト・エンドに進出、ミュージカル「ファンタスティックス」を上演した。
代表作
ミュージカル「アイ・ガット・マーマン」(1987年ブディストホール初演、他博品館劇場など)
「メアリーステュアート」(1996年サンシャイン劇場ほか)
ミュージカル「キャンディード」(2001年パルコ製作、東京国際フォーラムほか)
ミュージカル「太平洋序曲」(2000年新国立劇場日本初演、2002年NY、ワシントンDC、
ブロードウェイ版は2004年)
オペラ「フィガロの結婚」(2002年ほか)
亜門版「ファンタスティックス」(2003年世田谷パブリックシアターほか)
ミュージカル「イントゥ・ザ・ウッズ」(2004年新国立劇場)
オペラ「コジ・ファン・トゥッテ」(2006年)
ミュージカル「スウィーニー・トッド」(2007年ホリプロ製作、日生劇場)
受賞歴
1988年 昭和63年度文化庁芸術祭賞受賞(ミュージカル「アイ・ガット・マーマン」)
2004年 第4回朝日舞台芸術賞秋元松代賞受賞(ミュージカル「イントゥ・ザ・ウッズ」)
2005年 トニー賞4部門ノミネート(ミュージカル「太平洋序曲」)


